サンクスツアーファイナルから一夜明けて。
色々心に去来するものが多すぎて、収集がつかない。
そして、言語化するとすべてが陳腐になってしまう。
昨夜の出来事は夢のようだった。
思えば、ソチ後の休養宣言。
これでもう、スケートの世界へ戻ってこないかもしれないと
思っていたが、復帰宣言。
復帰した後はとても辛い日が続いたとは思うが、復帰してくれたが故、
素晴らしいプログラムを残し続けてくれた。
そして引退。
引退してもプロフィギュアスケーターや、テレビの仕事で、私たちの前から消えてしまわない選手もいたが、たぶん彼女は違う。
浅田真央=フィギュアスケート
なのだ。
これが彼女にとって、最大の不幸であり幸運でもあるのだが、
そのバランスをどう取って行くか、彼女自身が一番悩んだと思う。
ずっとスケートと共に生きてきた彼女の人生。
もはや抜きでは考えられない。
だから度々私たちの前に戻ってきてくれていたのかもしれない。
彼女がスケートの満足した時。
それが彼女がプロとして卒業する日なのだろう。
きっとサンクスツアー千穐楽がその日だったのではないかと思う。
泣きながら滑っていたそうだ。
でも笑顔だった。
この上ない幸福感と寂しさが彼女の中で渦巻いていたのだろうか。
私も昨日、真央ちゃんが滑っている姿を見て、ホロホロ泣いていた。
自然と涙が出るのだ。
号泣ではなく、ずっと少しずつ流れ落ちてくるのだ。
サンクスツアーメンバーの眼を見張るような上達具合にも驚いた。
正直、始まった当初は真央ちゃんが「あと二週間しかないんだよ」と
怒って泣く気持ちもわかる、と思った。
いつも一流のスケーターと一緒にショーをやっていた彼女にとって、
本当にもどかしい思いでいっぱいだったろう。
SOIやTHEICEのメンバーなら、2日くらいのリハで覚えてしまうような事でも彼、彼女たちは、覚えた事が毎日手のひらから砂が零れ落ちるように忘れていく。
他人を動かすということは、自分が努力するよりもっともっと大変な事なのである。
真央ちゃんは、そんな中3年間努力し続けて、自分の背中で彼、彼女たちを
引っ張っていった。
千穐楽のメンバーのスケートをみて、正直驚いた。
見違えたようなスケートになっている。
80分のショーが体感30分にも満たなかった。
これがみんな一体となっているショーなのだ。
浅田真央と仲間たちが作り上げた信頼の上に成り立つショーなのだ。
そしてそれは昨日終焉を迎えた。
でも、ショーは終わったがメンバーの人生はこれが始まりである。
もちろん真央ちゃんの人生も。
彼女の涙は、やりきった充実感、安堵感。みんなへの感謝と愛情。
そしてこれから始まる新しいスタートへの畏怖の念と希望だったと思う。
彼女のスケートには彼女自身の生きざまが現れている。
時には天使のように軽やかに愛らしく
時には戦士のように激しく力強く
風のように爽やかに素早く
きっと彼女は自分の価値を、私たちほどわかっていない。
彼女のスケートも、彼女の生きて来た道も。
だから、「今日で終わりです」と言い切ってしまう。
そして次への道へ進んでいってしまう。
それでいいのだ、と今は思う。
そうやって進む道は、迷いがないから。
やりきったからだと思う。
彼女が感謝を伝えてくれる以上に、私たちは感謝を伝えたい。
そうしてまたサンクスツアーに来る。
エンドレスになってしまう。
このアイスショーは価格も破格だが、集客層も新しい。
老夫婦がまるで、散歩に来るように足を運ぶ。
そして嬉しそうに帰っていく。
孫が会いに来てくれたかのように。
小さいお子さんがいる女性も来ている。
普段ならとてもこれない層の人たち。
でもそういう人たちも遠慮なく来れるショー。
赤ちゃんがむずかっていても、子供が歓声をあげても咎められないショー。
みんな本当にうれしそうだった。
その光景を見て、私たちも幸せな気分になる。
たぶんこんなショーはもう、二度と開催できないだろう。
スケーターも主催者も、スポンサーも、すべて揃わないとできない。
前人未踏の事をやってのけた浅田真央。
「それではスタートです」
かわいらしい声で、始まりを告げるが、そんなたやすい道ではなかったのに、
その苦労を氷の上では見せない。
私たちにひと時の夢を見せてくれる。
それも昨日で終わった。
これからは、どうなるのかわからない。
このショーをやり切った彼女は、きっとまた困難な目標に向かう。
でも、いつか絶対たどり着く。
その時にまた、極上の笑顔を見せてくれると信じたい。
その時、彼女が幸せであることも信じたい。
ありふれているが、最後に。
「ありがとう、真央ちゃん」
同じ時代を生きる事ができて、私たちは感謝しかない。